米国留学体験記@San Francisco(笠井先生)

米国留学体験記@San Francisco
笠井 洋祐 Yosuke Kasai, M.D., Ph.D.

略歴:

2006年3月 京都大学医学部医学科卒業

2006年4月 日本赤十字社和歌山医療センター初期臨床研修医

2008年4月 日本赤十字社和歌山医療センター外科

2012年4月 京都大学大学院医学研究科博士課程(肝胆膵・移植外科)

2017年4月 京都大学肝胆膵・移植外科医員

2018年2月 Postdoctoral Scholar, Department of Surgery, University of California, San Francisco

資格:日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本肝臓学会専門医、医学博士

この度、上本伸二教授をはじめとする教室の先生方の御高配により、本年2月からカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)外科部門(Prof. Eric Nakakura)に博士研究員として留学させて頂いております。まだ渡米して3ヶ月と短い期間の経験ではありますが、今後留学を希望される若い先生方の参考になれば幸いです。

◉ 留学に至る経緯

私は元々学位取得後に研究留学することを希望していました。昨年学位を取得し、留学が決まるまでの期間限定ということで4月から大学の医員として臨床の現場に戻りました。私は大学院時代主に肝細胞癌の基礎・臨床研究に携わってきましたが、臨床に戻って感じたのは、研究で培った知識・考え方が臨床で即活かされるということでした。上本教授や私の指導教官であった波多野悦朗先生から「臨床に根ざした研究」ということを常々ご指導頂き、そのような研究に恵まれたことの賜物と感謝しています。元々手術が好きで外科医になったわけですし、大学院での研究生活を経て手術・臨床にますます興味が深まり、このまま留学せずに臨床を続けたいという気持ちもありました。一方で留学することで外科医としての裾野をさらに広げることができれば、長い目で見ればブランクを補って余りあるものが得られるのではないかと考え、やはり初志貫徹、留学することを決意しました。留学先の候補としては、研究室の先輩である鳥口寛先生がUCSFに留学されていて、以前からお誘いを頂いていました。Prof. Nakakuraは鳥口先生のボスではありませんが、臨床検体を用いたoncology領域の研究をしたいという私の希望を汲んで紹介して頂きました。ボスの専門は神経内分泌腫瘍で、私が取り組んできた肝細胞癌とは畑違いではありましたが思い切って飛び込んでみることにしました。

◉ 研究

UCSF Medical Center at Mission Bay. U.S. Newsの2017-2018 Best Hospitals Honor Rollで全米第5位にランクされました。

ボスのProf. Eric Nakakuraと。

ボスは日系人ですが、生まれも育ちもこちらの方で、彼が日本語を話すのは聞いたことがありません。日々多忙な外科医で、肝切除とPDを同じ日にこなしてしまうような方ですが、研究に対する造詣も大変深いです。私のこちらでの研究テーマは、膵神経内分泌腫瘍の患者由来異種移植モデルを用いた探索的研究、多発小腸神経内分泌腫瘍のゲノム・エピゲノム網羅的解析(多施設共同研究)、神経内分泌腫瘍肝転移に関する臨床研究です。こちらで研究することの魅力はやはり研究費の規模が大きいということと、学内外の共同研究機関が非常に充実しているということです。実験に関しては私自身ももちろん手を動かしますが、動物管理など学内に様々な担当専門部署(コア)があり、研究の流れを私たちが主導しながら実験自体はコアに依頼することが多いです。実験に忙殺されずに時間的・心理的ゆとりを持って研究全体を俯瞰しながら遂行できるという利点があります。空いた時間を利用してボスの肝胆膵領域のメジャーな手術の際には手技を見学させてもらっていますが、日本式の手術とは随分異なり驚かされることが多いです。日米間での良し悪しの比較という意味ではなく、手術適応も含めこの手術で術後のアウトカムがどうなのか、という点に興味を持っています。臨床検体はそれ自体に意味があるのではなく、多くの場合は臨床情報とひも付けされて初めて意味を持ちます。どのような手術が行われた症例の検体であるのかを常に意識しながら研究を進めて行きたいと考えており、これこそが外科医として研究に携わることの意義であると考えています。

◉ 生活

サンフランシスコの象徴、太平洋からサンフランシスコ湾への入り口にそびえ立つGolden Gate Bridge。

Twin Peaksからサンフランシスコ市内を一望。

留学のもう一つの魅力は何と言っても海外で生活ができるということです。サンフランシスコはアメリカ西海岸のカリフォルニア州北部に位置する人口85万人の都市で、三方を太平洋とサンフランシスコ湾に囲まれ起伏に富んだ風光明媚な街並みが特徴的です。夏は涼しく冬は温かい快適な気候で、晴れ渡った青空に心が洗われます。このような土地柄のため観光人気だけでなく居住人気も高く、地価が年々上昇しているところが難点です(1ベッドルームの家賃は中央値$3,500/月で全米一)。私は幸いにUCSFのHousingを借りられましたので比較的安価ではありますが、それでも大学から支払われる給料の半分以上が家賃で消えています。治安は比較的良好です。UCSFには日本人留学生も多く、またUCSFは医療・ライフサイエンス系の大学院大学であるため日本人留学生の大半が医師です。SNS上で日本人医師のコミュニティがあり研究や生活のことを積極的に情報交換していて、定期的に親睦会も開催しています。カリフォルニアは移民が多いこともあり、多様なバックグラウンドを持つ人々が当たり前のように共生していて、寛容的で溶け込みやすい社会だと感じます。渡米して3ヶ月が経った今でも英会話は満足ではありませんが、多少変な英語をしゃべっていてもボスであれスタッフであれ店員であれしっかり理解しようと聞いてくれるので、その点での不安は解消されてきています。まさに「習うより慣れよ」です。

海からの強風で家が傾いている・・・わけではありません。傾斜角20度の急斜面。サンフランシスコ市内には約50箇所の丘があり、起伏に富んだ街並みが特徴的です。

急斜面を走るケーブルカー。敢えてステップに立ち乗りするのが人気ですが、カーブで転落する人もいるらしいので要注意!

私は野球部でしたので、こちらでの楽しみはもちろんMLB観戦です。とりわけ今年の注目はやはり投打の二刀流、大谷翔平選手でしょう。あいにくSan Francisco Giantsと大谷選手の所属するLos Angeles Angelsはリーグが異なるため今年は大谷選手がサンフランシスコにやって来ることはありませんが、サンフランシスコ湾を隔てた対岸のオークランドを本拠地とするAthleticsとは同一リーグ・地区であるため2-3ヶ月に一度オークランドにやって来ます。そして、幸運にも大谷選手のオークランドでの記念すべきMLB初勝利を観戦することができました。世界最高峰のMLBでは困難と言われていた二刀流で早くも結果を出し、全米を席巻している姿にとても勇気付けられています。

大谷選手のMLB初登板・初勝利を現地で観戦(2018年4月1日オークランドにて)。

2015年サンフランシスコで開催のAASLDの際に研究室メンバーでナパバレーのワイナリー巡り(左から、私、西野先生、鳥口先生、波多野先生、西尾先生、竹本先生)。

◉ 最後に

外科医にとって働き盛りの30代半ばに手術から離れることの不安はもちろんあります。しかし、研究面においても生活面においても文字通り「世界が広がる」実感は何物にも代えがたい魅力があります。臨床と研究の二刀流、academic surgeonとして成長していける場として、異文化を楽しみつつこの留学の機会を活用したいと思っています。改めまして、このような貴重な機会を頂き、上本教授をはじめ教室の先生方、諸先輩方に心から感謝申し上げます。一人でも多くの外科の後輩が留学を志す一助になりましたら幸甚です。

2018年5月

笠井 洋祐