肝移植

肝移植の概要

肝移植には生体肝移植と脳死肝移植があります(図1)。

図1 生体・脳死肝移植の特徴

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日本ではこれまで生体肝移植が99%以上を占めていました(図2)。

図2 日本における年次別生体・脳死肝移植症例数 (~2008)

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しかし、2010年7月17日の改正臓器移植法案全面施行後、脳死肝移植が急増しています(図3)。

図3 日本における脳死肝移植症例数

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また、肝臓を提供する人をドナー、肝臓を提供される人をレシピエントと言います。

生体肝移植

健康な生体ドナーから提供された肝臓の一部を移植する手術です。京都大学では、1990年6月に日本で2例目となる小児に対する生体部分肝移植を施行しました。1994年からは成人(18歳以上)にも適応を広げ、2014年7月現在で約1700例の生体肝移植を施行しています。最近では当科肝移植症例の約70%が成人症例となっています。症例数は日本で最も多く、世界でも有数の肝移植施設となっています(図4)。なお、2012年夏、多剤耐性緑膿菌の院内感染のため、2012年9月から2013年1月まで成人肝移植プログラムを中断いたしました。また、ICUの増床工事のため、現在一時的に手術症例を制限しておりますが、ICUが増床される2015年春以降は、再び年間70〜80例の肝移植を実施する予定です。

図4 京都大学における年次別小児・成人肝移植症例数

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京都大学における1990年から2009年3月までの1300例の生体肝移植生存率は、1年81.9%、3年79.1%、5年77.5%、10年73.4%です(図5)。

図5 京都大学における生体肝移植生存率

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脳死肝移植

脳死に至った方の善意によって提供された肝臓を移植する手術です。京都大学では、1999年に第1例目の脳死肝移植を施行して以来、2014年7月現在で39例の脳死肝移植を施行しています。しかし、内訳を見ますと、2010年7月の改正臓器移植法案全面施行までが17名(=1年当たり約1.5例)でありましたが、改正臓器移植法案全面施行後は、22名(=1年当たり約6例)と約4倍増加し、今後も脳死肝移植症例数の増加が予想されます。図6に改正臓器移植法の要点をお示しします。

図6 改正臓器移植法の要点

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肝臓移植のためのガイドブック

対象疾患

内科的に治療不可能な末期肝疾患です。

主な疾患

1、B型・C型肝炎ウイルス性肝硬変:B型肝炎は、核酸アナログ製剤と抗HBs人免疫グロブリンにてほぼ100%移植後再発防止可能です。一方C型肝炎は、肝移植をしてもほぼ100%再発します。京都大学では、移植後、肝生検にて再発を確認してからインターフェロン+リバビリン療法を行い、良好な成績をあげています。

2、肝細胞癌:原則としてKyoto基準内に限ります(後述)

3、胆汁うっ滞性肝硬変:原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎

4、アルコール性肝硬変:6ヶ月以上禁酒できていることが条件です

5、劇症肝炎:薬物性、B型肝炎の急性増悪、原因不明など

6、先天性胆道閉鎖症:新生児・乳児期のKasai術後

8、自己免疫性肝炎

9、代謝性肝疾患:ウイルソン病、家族性アミロイドポリニューロパチー、高シトルリン血症など

・特にウイルス性肝硬変、肝細胞癌、胆汁うっ滞性肝硬変が、全症例の約90%を占めています(図7)。

図7 京都大学における年次別疾患別成人肝移植症例数

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・肝硬変が進行しますと門脈血栓を伴うことがありますが、肝移植の禁忌とはなりません。術前画像検査にて門脈血栓の程度を評価し、種々の血管を用いて血行再建しています。

・肝切除や肝移植、胃切除術など、過去に手術をされた方でも肝移植可能です。

肝細胞癌に対する肝移植適応

肝細胞癌に対する代表的な肝移植適応基準として、1996年にMazzafferoらにより提唱されたミラノ基準があります。すなわち、画像上、肝外転移や肝内血管浸潤がなければ、「単発なら5cm以下、2ないし3個なら最大径3cm以下の腫瘍に限る」という基準です。

この基準は、脳死肝移植において肝細胞癌以外の症例に対する肝移植と同等の成績を得るという目的で決められた基準です。したがって、腫瘍の大きさや個数に関して、再発の可能性が低い(であろうと思われる)肝細胞癌に限っています。しかし、その後の脳死肝移植における検討で、ミラノ基準を超えた症例でも再発が無く長期生存する症例を多く経験するようになってきました。また、近年の画像診断の進歩や、日本においてはラジオ波凝固療法や経動脈化学塞栓療法、肝切除といった集学的治療後に、治療不能となり肝移植施設を紹介されるといったケースが増えてきました。

そこで、現在の医療に即した肝移植適応が求められるようになりました。京都大学では、1999年から2006年までに、腫瘍の大きさや個数に制限を設けず136例の肝細胞癌患者に対し肝移植を行いました。この経験から、多変量解析という手法により、1)大きさが5cm以下、2)個数が10ヶ以下、3)肝細胞癌の腫瘍マーカーであるPIVKA-II (Protein induced by Vitamin K absence or antagonist-II、別名DCP: des-gamma-carboxy prothrombin) が400mAU/mL以下、の3つの因子が有意に再発しにくい因子であることが分かりました。

そこで、これら3因子をすべて満たす、すなわち「大きさが5cm以下、個数が10ヶ以下、PIVKA-IIが400mAU/mL以下」をKyoto基準と設定しました(図8 Kyoto基準におけるPIVKA-II 400以下の意義)。

図8 Kyoto基準におけるPIVKA-II 400以下の意義(Takada et al. Dig Dis 2007)

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Kyoto基準内症例、基準外症例の5年生存率は、各々86%、28%と、有意にKyoto基準内症例の生存率が良好でした (P < 0.0001) (図9)。

図9 Kyoto基準別生存率

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さらにKyoto基準内症例、基準外症例の5年再発率は、各々5%、58%と、有意にKyoto基準内症例の再発率が低値でした (P < 0.0001)(図10)。

図10 Kyoto基準別再発率

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この結果は、肝細胞癌の生物学的悪性度(血管浸潤や転移のしやすさ)を組み入れた移植基準の妥当性を示しています。

2007年からは、原則としてKyoto基準にて肝細胞癌患者に対する肝移植適応を決定しております。2007年1月から2011年12月までの間に肝移植を施行しました62名の患者の3年生存率は80.4%、5年生存率は81.8%、5年再発率は6.3%と、良好な成績を認め、前向き検討にても、Kyoto基準の妥当性が証明されました(Kaido et al. Surgery 2013)。

なお現在のところ、肝細胞癌に対する保険適応は、「非代償性肝硬変に合併するミラノ基準内の肝細胞癌」とされています。従いまして、京都大学では「ミラノ基準を超えているがKyoto基準内の肝細胞癌の方」や、「ミラノ基準内だが代償性肝硬変の方」にも生体肝移植を行いますが、その際は自費診療となります。なお、日本の肝細胞癌に対する脳死肝移植の適応は、ミラノ基準内です。

また、肝移植の前にラジオ波凝固療法や経動脈化学塞栓療法、肝切除といった前治療を行った方に対しては、前治療後3ヶ月以降かつ肝移植1ヶ月以内にダイナミックCTを行い、典型的な肝細胞癌に対してミラノ基準内またはKyoto基準内か否か判断します。

生体肝移植ドナーの条件

倫理的条件
最も重要なことは、誰かに強制されたのではなく、本人の自発的意志に基づいて臓器の提供を希望される方に限るということです。レシピエントとの関係は、京都大学では3親等以内の親族(本人から見て、両親、祖父母、兄弟姉妹、叔父、叔母、甥、姪)あるいは配偶者としております。

年齢
原則として20歳以上65歳未満です。

主な医学的条件
1、肉体的・精神的に健康であること

2、ウイルス感染症(肝炎ウイルスやヒトT細胞白血病ウイルスなど)のないこと

3、肝機能が正常であること(軽度脂肪肝であれば、改善後ドナーになれます)

4、レシピエントに提供できる部分肝(グラフトと言います)の大きさが十分で、かつドナーにも十分な大きさの肝臓が残ること(CT検査にて肝臓の大きさを測定し判断します。京都大学の基準は、グラフトの重量がレシピエント体重の0.6%以上あり、かつドナーの肝臓の30%以上が残るという基準です。)

5、ABO式血液型は一致または適合(O型からA型・B型・AB型、A型・B型からAB型)が望ましいのですが、一致または適合しているドナーがいない場合、不適合(一致または適合以外の組み合わせ)ドナーからの移植も行っています(図11)。

図11 ABO血液型一致適合・不適合

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ただ、不適合移植の場合、種々の工夫により移植成績は向上していますが、一致または適合移植よりやや不良です(後述)。

血液型不適合移植

京都大学では、移植開始当初より血液型不適合移植に対する肝移植に取り組んで参りました。その結果、2歳未満の小児肝移植においては良好な成績でしたが、18歳以上の成人症例においては液性拒絶反応が強く、免疫抑制剤の多量使用による感染症や胆管合併症により移植成績が不良でした。

そこで当科では、術前・術中・術後の様々な工夫により、徐々に移植成績が良くなってきました(図12)。

図12 京都大学における成人ABO血液型不適合移植成績

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現在の主なプロトコール

1、移植2週間以上前に、抗CD20抗体投与

2、術前血漿交換(血液型抗体価を下げるため、抗体価8倍以下を目標に2,3回行います)

3、移植1週間前から代謝拮抗剤(ミコフェノール酸モフェチル500mg分2)内服。術後も継続。

脳死肝移植登録の手続き

以前は、脳死肝移植数が全国で年間10名未満でしたので、なかなか脳死肝移植を受ける機会はありませんでした。しかし、2010年7月の改正臓器移植法案全面施行後、全国的に脳死肝移植症例が増加しています。現在、年間当たり40~50例の脳死肝移植が行われ、生体ドナーがおられない方、あるいは生体ドナーがいても血液型不適合移植やリンパ球クロスマッチ陽性でリスクが高い場合には、脳死肝移植の機会が増え、福音となりました。

脳死肝移植の対象疾患は生体肝移植と同様ですが、肝細胞癌に関してはミラノ基準内に限るということと、アルコール性肝硬変に関しては登録前6ヶ月以上の禁酒実績と移植後の禁酒が守れることが相違点です。またABO式血液型は一致または適合に限られます。
脳死肝移植登録の流れは、図13をご覧下さい。

図13 日本臓器移植ネットワーク登録の流れ

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肝移植適応評価検討委員会にて、肝移植対象疾患別に医学的緊急性によって点数がつけられます(3点、6点、8点、10点)。

脳死ドナーが発生しますと、日本臓器移植ネットワークにて、優先順位に従ってレシピエントが選定されます。具体的には、前述の医学的緊急性とABO式血液型(一致1.5点、適合1点)の合計点数の高い順ですが、同点のレシピエントが複数存在する場合は、待機期間の長い方が優先されます。また、選択されたレシピエントに対し、移植肝のサイズが合わない(大きい)場合は、分割肝移植も考慮されます。
脳死ドナー発生から移植手術までの流れは、図14をご覧下さい。

図14 脳死ドナー発生から手術まで

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肝臓移植成績向上のために

肝移植後生存率のグラフを見ますと、移植後3ヶ月以内の早期の死亡が多く、その後はほぼ平坦になっていきます(図5 京都大学生体肝移植生存率)。従いまして、移植後早期死亡率の低下が、生存率向上のカギであることが分かります。そこで、移植後早期死亡原因を分析しましたところ、63%が敗血症や肺炎などの感染症でした(図15)(Kaido et al. Liver Transpl 2009)。

図15 肝移植後早期死亡原因

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さらに、当科肝移植症例の解析により、肝移植前の栄養状態や周術期栄養療法が、肝移植後感染症の発症と密接に関連していることが明らかになりました (Kaido et al. Nutrition 2012, Kaido et al. Am J Transplant 2013)。当科では、2008年より管理栄養士と協力し、入院時に体成分分析装置(InBody 720®)により骨格筋量や体細胞量、体脂肪率などの全身評価をしてまいりました。最近、いろいろな領域で骨格筋量と筋力が低下しているサルコペニアの臨床的意義が注目されつつあります。そこで、入院時に骨格筋量が標準値(各患者の性別と身長によって自動的に計算される値)より低下している患者(赤色の部分)をサルコペニア患者と定義しますと、約40%の患者がサルコペニアと診断されました(図16)。

そこで、サルコペニア群とサルコペニアでない群に分け、移植後生存率を比較したところ、明らかにサルコペニア群で移植後生存率が不良でした(図17)。死因を分析すると、サルコペニア群ではサルコペニアでない群に比べ、感染症で亡くなる方が多いことが分かりました。

さらに、サルコペニア群を、周術期栄養療法を十分に施行し得た栄養療法あり群と栄養療法なし群に分けますと、栄養療法を行えた群は、行えなかった群に比べ、著明に生存率が良好でした(図18)。したがって、これらのデータを元に、術前筋肉量低下している患者を中心に、「肝移植周術期栄養療法とリハビリテーション→術後感染症の制御→肝移植後短期成績の向上」とのstrategyを立て、積極的に栄養療法を行っています。

京都大学では、ERAS(Enhanced recovery after surgery)やエビデンスに基づいた栄養療法を導入しようと、ESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)の外科周術期栄養ガイドラインを参考に、個々の肝移植患者の栄養状態に応じたきめ細かな栄養療法、すなわちオーダーメイド型栄養療法を行っています(図19)。

京都大学では、ERAS(Enhanced recovery after surgery)やエビデンスに基づいた栄養療法を導入しようと、ESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)の外科周術期栄養ガイドラインを参考に、個々の肝移植患者の栄養状態に応じたきめ細かな栄養療法、すなわちオーダーメイド型栄養療法を行っています(図16)。

図16 オーダーメイド型栄養療法

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1、まず入院時に管理栄養士とともに体成分分析装置(InBody 720®)と血液検査で栄養評価を行います。

2、次に栄養評価をもとに、至適栄養剤や食事メニュー、カロリー・蛋白摂取量を決定します。

3、腸管のみならず全身免疫を賦活するシンバイオティクスや、アンモニア分解を促進するなど有益な作用を有する亜鉛を投与します。

4、さらに、術前栄養評価にて筋肉量が低下している方には、術前から術後早期回復・肺炎抑制・誤嚥防止を目的にリハビリを行います。

5、術後の基本は早期経腸栄養です。術中に留置した経腸栄養チューブより、移植後早期に経腸栄養を開始します。栄養剤は、抗炎症作用を有するホエイペプチドを豊富に含んだ食品を用いています。

6、術後もシンバイオティクスを投与し、リハビリを積極的に行います。

さらに、前述のように、重症感染症を早期に診断することは重要であります。また、移植後の拒絶反応と感染症とは、ともに発熱や白血球の上昇を認めるなど臨床的に区別が難しいことが少なくありません。しかし、これらの治療法は全く逆です。すなわち、感染症なら抗生物質の投与と免疫抑制剤の減量、拒絶反応なら免疫抑制剤の強化が必要です。したがって、重症細菌感染症と拒絶反応を早期に区別することができないかと考えておりました。

そこで、最近当科では、細菌感染症のバイオマーカーであるプロカルシトニンに着目し、肝移植周術期に経時的に測定することにしました。その結果、移植後菌血症を発症した人は発症しなかった人に比べ、プロカルシトニンが高値であることを報告しました(図20)(Kaido et al. Transplant Infectious Disease in press)。また、プロカルシトニンのカットオフ値として、2ng/mLと0.5ng/mLが有用であると報告し(図21)、現在前向きに妥当性を検証しております。

ここでは栄養療法を例にあげましたが、肝移植成績向上のためには「チーム医療」が重要です。外科医だけでは肝移植医療は成り立ちません。消化器内科、呼吸器内科、腎臓内科、糖尿内科、感染症科を始めとする内科系の先生方、麻酔科や病理部、放射線科、精神科等の先生方、さらに看護師、管理栄養士、理学療法士、コーディネーター等のパラメディカルの方の力が必須です。京都大学では、“チーム肝移植”の力を結集して、肝移植ドナー・レシピエント双方の成績向上やQOL向上に努めています(図22)。

図17 チーム肝移植

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肝移植適応の変更と変更後の成績

従来、当科では、極めて重症の方や、ベッド上で寝たきりの方、人工呼吸器管理中、急性腎不全による人工透析が必要な方など、全国から広く肝移植希望者を受け入れておりました。しかし当科では、前述のように多剤耐性緑膿菌発生の経験や術前筋肉量の重要性のエビデンスを考慮し、2013年1月から肝移植適応に、「自立歩行可能であること」を追加いたしました。

その結果、2013年1月から2014年5月までの成人肝移植43例の6ヶ月生存率は98%ときわめて良好でありました。

 

肝移植を希望される方へ

・紹介病院からの受診予約:初回移植相談は約2時間かけてじっくりお話ししますので、事前に受診予約が必要です。

・方法

1、京大病院のホームページhttp://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/を開く

2、「医療機関のみなさまへ」の欄の「患者さんの紹介予約システム」をクリック

3、患者登録票をプリントアウト

4、必要事項を記入して頂き、さらに紹介病院所定の紹介状と血液データの推移を併せて、当院地域連携室へFAX送信(075-751-3115)して下さい。

5、予約受付が完了しましたら、予約確認票をFAXで送付致します。

6、予約確認票が届きましたら、患者さんまたはご家族に渡して頂き、京都大学移植情報室のコーディネーターに連絡して下さい(TEL: 075-751-3243)。受診日の詳細について調整します。

7、初診時には、レシピエント・ドナー双方がお互いのリスクを理解することが重要ですので、レシピエントとドナー候補者の方が一緒に来院して下さい。さらに、既婚者の場合、ご家族の理解のために各々の配偶者の方の同席も必要です。

8、初回インフォームドコンセント時は、医師から生体あるいは脳死肝移植の概要・成績・リスク、レシピエント・ドナー双方の手術内容・術後経過・合併症、原疾患別の特記事項などを説明致します。コーディネーターからは、移植前の検査手順、待機中の心得・生活指導・術後のご家族の付き添い、保険診療・保険適応外診療に応じた手術費用、公費申請書類(障害者手帳・特定疾患等)の手続きなどについて説明します。

※なお、劇症肝炎などの緊急時は、まず直接コーディネーターにお電話(075-751-3243)頂き、紹介状のFAX(075-751-3245)をお願いします。