教室コラム#10 「何で世界で勝てるのか?」を公開しました。

波多野悦朗先生による、教室コラムを公開しました。

 

私の経験した最長時間の手術は、生体肝移植における顕微鏡下肝動脈再吻合である。小児肝移植における肝動脈血栓症(HAT)はグラフトロスの原因のひとつで、京都大学では、脳神経外科医の指導のもと顕微鏡を用いたmicrosurgeryを導入し良好な成績を示していた(Mori K et al. Transplantation,1992)。私も1994年から1998年まで「動脈隊」の一員として顕微鏡下の肝動脈再建を担当し、HATの発症をルーペ下の12.5%から4/242(1.7%)に減少させることができた(Hatano E et al. Transplantation, 1997)。今から26年前HATが発症して、緊急手術を行なった症例がある。矢部先生と何度も粘り強く再吻合を行ったが、結局良好な肝動脈血流は得られなかった。顕微鏡を丸一日のぞいていたことになり、さすがに手術室の床で眠りについたのを覚えている。患児の予後は厳しいだろうと思っていた。最近、予後が気になり調べたところ、ご健在だった。

先日、ある基礎の教授が、「何で世界で勝てるのか?」と質問されているのを聞いた。つまり、「何が武器で、competitiveな領域で勝負できるのか?」ということかと思い、自問自答してみた。かつて、日本はアジアで唯一の先進国であった。外科においても、日本はリスペクトされ、アジアから多くの外科医が留学や見学にやってきた。今や、日本が内に籠っていてもプレゼンスを示すことができる時代は終わり、このままだと韓国、中国、インドに置いていかれるだろう。すでに、生体肝移植においては、アジアいや世界のトップの座を韓国に取られている。韓国は国策として、脳死肝移植や施設の集約化をすすめて成功した。日本のシステムでは、集約化はすすまず、中国や韓国のN数で勝負することはできない。今でも我々が世界に誇れる点は何か?それは、日本人の国民性にも通じるものがある。

術前のきめ細かい評価、シミュレーション緻密な手術手技

合併症が発症しても早期に診断して大事に至らぬようにする実直な周術期管理そして、粘り強さ

Precise, Honest, Tenacious

 

名古屋大学の梛野正人先生(現愛知県がんセンター)のところに何度か手術見学にうかがった。まだ梛野先生が教授就任して間もないころで、「世界最高の治療成績を目指す」とお話しされていた。2020年に退官されるまでにそれを実現された。学生時代、当時からノーベル賞候補であった本庶佑先生の講義を拝聴した。

最初に、「臨床医は、一生で数百から数千の患者を治すことができるかもしれないが、研究者は、その発見により、桁違いの患者さんを助けることができる」と話された。すごいと感じたが、本庶先生は実行された。私の領域でも、すでに、免疫チェックポイント阻害剤は切除不能肝癌、胆道癌のファーストラインの治療薬のひとつになった。

話を戻そう。「何で世界で勝てるのか?」

日本人の緻密さ、実直さ、そして粘り強さで、症例数ではない、世界最高の治療成績と世界最大の移植を含めた手術適応で、「ひとりでも」助けること。
京都大学に来たから助けることができた、病気を治すことができたという患者さんをひとりでも増やすことが我々のミッションである。

それで世界で勝てるの?それはわかりませんが、サッカーはドイツ、スペインに勝ったよ。

WBCはまだわからんけど。

まあ、見ててください!

 

3月20日 波多野悦朗