教室コラム『働き方改革は外科医不足の解消につながる?!』を公開しました
昨今、様々な学会等で深刻な外科医不足改善に向けての議論がなされています。医学部の定員増加などによって医師の総数は徐々に増えてきている中、労働環境が過酷と思われがちな外科への志望者数は苦しいのが現状です。
外科に入局した私たちが研修医だった頃は、夜中まで働き、週の半分程度は病院で寝泊まりしたものでした。今から考えると医学的にも物理的にもあり得ない作業も多かったように思います。長時間労働=美徳といった古い風潮や、徒弟制度もありましたが、それでも外科で働くことが好きで楽しく仕事をしていたことが思い出されます。しかし、開腹手術が時代の流れとともに腹腔鏡、ロボットへとパラダイムシフトしているように、働き方にもパラダイムシフトは起こっているといえます。少子高齢化や家族形態の在り方、雇用環境の悪化とともに、ワークライフバランスの重視が意識されています。最近では “Diversity”や“Flexibility”といったワードもよく耳にしますが、時短勤務やリモートワーク、フレックス制度の導入などが身近なところでみられる変化でしょう。
この2年程は、コロナ禍の自粛や不安等、COVID-19に振り回される日々でした。これまで国内外の学会に参加した場合、日常診療から開放され、勉強もしつつ、空いた時間には美味しいご当地ものを食べて観光したり、他施設の先生方と情報交換したり、と学会出張ならではのひとときがありました。しかし、自粛による様々な我慢の一方で、私たちは、Withコロナ社会での新しいあり方を得たのも事実です。Web開催の学会では、現地へ移動することなく、日常診療を行いながら時間になれば出席が可能です。また現地では同じ時間帯の発表を聞けないこともよくありますが、オンデマンド配信では聞き放題という利点も挙げられます。はじめは戸惑いも多くありましたが、慣れてみると便利さを感じており、これもPostコロナ社会での働き方の一つに繋がると考えられます。たとえ育児や家事に追われる世代であったとしても、リモートで参加できるのであれば、学会発表や参加も積極的にこなせるわけです。
医学部の女子の割合は、約5割に近づき、大学によっては女子学生の方が男子学生を上回っているところもあるそうです。私が研修医をしていた時代と比較すると、今ローテートしてくる研修医の中で、女子の割合は明らかに多くなってきています。医学部の女子学生や女性医師が多くなってきたことが外科医離れに繋がっている可能性を示唆する声も聞かれますが、本当にそうでしょうか?私は逆に、外科医不足の打開策として、女性外科医のリクルートが非常に重要なポイントになってくると考えています。外科に興味を持ち、志したいと思う女子は、実は結構いるんじゃないか、また外科に魅力を感じていても、働く環境に不安を抱いて進めていけなかった人も多いのではないか、と思っています。最もよく聞かれる質問は、「どうして外科を選んだのですか?」です。次に「体力的に大丈夫ですか?」や、「仕事以外との両立は出来るんでしょうか?」や、「男の先生ばかりの中での仕事環境は?」等々。2つ目以降の質問内容がやはり心配であり、最終的に外科を選択しなかった、という人たちがいた可能性は否めないと思います。結局のところ、『働き方』がネックになっているという人が多いのではないかと感じています。
働き方改革に向けて考慮すべきタスクシフトやチーム医療の推進は、今後ますます重視すべき課題です。Withコロナ時代に進化した新しいツールや 環境整備をFlexibleに行うことで、一人でも多くの女性外科医が増えていくことを願ってやみません。
2022年3月31日 加茂 直子