膵臓移植
当院では、腎不全に陥った糖尿病患者に対する「膵腎同時移植」と「腎移植後膵臓移植」、および、1型糖尿病に対する「膵単独移植」を実施しております。
これらは、臓器そのものを移植する「臓器移植」、ですが、2020年からは、「組織移植」である「膵島移植」も保険診療として実施できるようになっております。
移植を希望する方には、それぞれの治療の違いや、治療の選択方法について、随時、説明を行っておりますので、下記の連絡先までお問い合わせ下さい。
【問い合わせ窓口】
- 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科/臓器移植医療部
- 連絡先:移植情報室 TEL: 075-751-3243
※通常、平日8:30〜17:00に対応させていただきます。 - 担当医:穴澤貴行(移植医) 藤倉純二(糖尿病内科医)
- 移植コーディネーター:松山陽子
膵臓移植の概要
インスリン依存性糖尿病について
インスリン依存性糖尿病は、膵臓の中にあるインスリンを分泌する細胞(β細胞)の障害のため、インスリンが体内で産生、分泌されず、インスリン投与が必要となった状態です。
現在、インスリン依存状態糖尿病の治療としては、血糖測定をしながらインスリン注射をする強化インスリン療法が行われます。
しかし、綿密なインスリン注射でも血糖値が安定せず、低血糖発作を繰り返すことがあり(重症インスリン依存状態糖尿病)、この場合は膵臓移植あるいは膵島移植の適応となります。
いずれの移植も重症のインスリン依存状態を解決するための移植医療で、移植後は免疫抑制剤を使用する必要があります。
膵臓移植について
膵臓の臓器移植では、高い確率で1回の移植によってインスリンから離脱(正常血糖の維持のためにインスリン注射を必要としない状態)できる、あるいは糖尿病の寛解が得られる可能性があります。
ただし、全身麻酔による開腹手術を要するため患者さんの体へ負担がかかり、また、手術による合併症が起こる可能性もあります。
主に、腎不全を合併したインスリン依存性糖尿病の患者さんに腎臓移植と同時に行われています。膵臓は通常、右下腹部に移植されます。腎移植を同時に実施する場合には、腎を左下腹部に移植します。
膵島移植の適応と治療成績について
膵臓移植の対象は、以下の(1)または(2)のいずれかに該当する方で、年齢は原則として60歳以下が望ましいとされ、合併症または併存症による制限が加えられています。
- 腎不全に陥った糖尿病患者であること。
臨床的に腎臓移植の適応があり、かつ内因性インスリン分泌が著しく低下しており移植医療の十分な効能を得るためには膵腎両臓器の移植が望ましいもの。患者はすでに腎臓移植を受けていても(PAK)良いし、腎臓移植と同時に膵臓移植を受けるもの(SPK)でもよい。 - 1型糖尿病の患者で、糖尿病専門医によるインスリンを用いたあらゆる手段によっても、血糖値が不安定であり、代謝コントロールが極めて困難な状態が長期にわたり持続しているもの。
このような方に膵臓単独移植(PTA)が適応となります。
また、このような状態の患者さんは、「膵島移植」を選択することも可能である場合があります。
移植を受けるためには、日本臓器移植ネットワークに、移植待機者として登録されることが必要です。登録までの手続きについては、以下のサイトをご参照ください。
待機患者さんの数はここ数年ほぼ横ばいであり、2018年10月現在、211名の方が登録されています。
しかし、ドナーの数の絶対的な不足により、累積登録者689名中、脳死または心停止ドナーからの移植を受けられた方はこれまで338名であり、その待機期間は約3年半となっています。
ただし2010年7月の改正臓器移植法の施行により脳死ドナーからの移植数は増加しております。
移植成績
日本全国での集計では、移植した膵臓の1年、3年、5年生着率はそれぞれ86.3%、80.2%、74.9%と報告されています。
移植後の合併症としては感染症、膵グラフト血栓症、グラフト十二指腸穿孔、慢性または急性の拒絶反応、1型糖尿病再発などが重篤なものとして報告されています。
免疫抑制剤の投与について
免疫抑制剤にはいくつかの種類があり、それぞれの特徴は異なりますが、現時点で膵島移植に有効と考えられる組み合わせでの免疫抑制療法のもとに膵島移植を実施します。
免疫抑制剤として使用する可能性のある薬剤は『膵移植』に対する効能効果が承認されている薬剤(タクロリムスまたはシクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン、またはバシリキシマブ)で、これらを組み合わせて使用します。具体的な使用法は担当医にお尋ね下さい。
医療費について
移植術や検査などの治療にかかる医療費については、患者さんがお持ちの健康保険証により計算されます。
保険の種類、収入状況によっては、「限度額適用認定証」などの提示により、実際の負担額を押さえる制度もあります。
ご不明な点があれば、外来については会計受付、入院については入院受付でおたずねください。
健康保険が適用される手術や検査などの治療にかかる医療費については概ね一定ですが、合併症などによって治療が必要になった場合はさらに費用がかかることになります。
合併症や偶発症が発生した場合は、必要な検査や治療を行うなど、適切に対処いたします。
これらの医療は、通常通りの健康保険が適用され自己負担分をお支払いいただきます。
なお、治療に伴って個室での療養が必要と本院が判断した場合は、個室料はいただきません。
患者さんのご希望で個室を利用された場合は、通常の診療と同様に個室料をいただきます。
日本膵・膵島移植研究会 http://plaza.umin.ac.jp/~jpita/index.html
日本移植学会 ファクトブック http://www.asas.or.jp/jst/pro/factbook/
膵臓移植中央調整委員会・膵臓移植に関する実施要綱 http://www.ptccc.jp/youkou.php
膵島移植について
インスリン依存性糖尿病に対する同種膵島移植について。
当院では、1型糖尿病といったインスリン依存性糖尿病に対する身体への負担の小さい移植治療として、「膵島移植」を実施しております。
2020年からは、保険診療として膵島移植が実施できるようになりました。移植を希望する方には、随時、説明を行っておりますので、下記の連絡先までお問い合わせ下さい。
【問い合わせ窓口】
- 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科/臓器移植医療部
- 連絡先:移植情報室 TEL: 075-751-3243
※通常、平日8:30〜17:00に対応させていただきます。 - 担当医:穴澤貴行(移植医) 藤倉純二(糖尿病内科医)
- 移植コーディネーター:松山陽子
膵島移植の概要
膵島について
膵臓はタンパク質などを分解する消化酵素を消化管に分泌する外分泌とホルモンを血液中に分泌する内分泌の二つの働きを持ちます。
消化酵素を分泌する外分泌腺が膵臓全容積の95%以上を占め、内分泌腺は5%以下です。この膵内分泌腺組織を「膵島」と呼んでいます。膵島を構成する細胞のほとんどはα細胞(約20%)とβ細胞(約80%)からなり、この二種類の細胞はそれぞれ、グルカゴンとインスリンという血糖の調節に非常に重要な役割を果たすホルモンを産生、分泌しています(図1)。
グルカゴンは血糖を上げる作用を、インスリンは血糖を下げる作用を持ちます。またこれらの細胞はそれ自身で血糖を感知することができ、運動時や摂食時などの急激に変化する血糖に対して迅速に反応し、それに見合った適量のホルモンを分泌することによって血糖を非常に狭い範囲に調節することが可能となっています。
膵島移植では、膵臓の膵管にコラゲナーゼという酵素を注入して膵臓を消化し、膵島だけを純化して取り出すことで、膵島を分離し、その膵島を移植します。
- ヒトの膵臓は上腹部に存在する。肝臓の下側、胃の後方に位置する。
- 膵内分泌細胞の塊である膵島は外分泌線の中に点在して存在する。
- β細胞はインスリンとC-ペプチド(C-peptide)を同量産生し、血液中に分泌する。
- α細胞はグルカゴンを産生し血液中に分泌する。
- 外分泌腺細胞は消化酵素を膵管内に分泌し、それが消化管に排泄される。
インスリン依存性糖尿病について
インスリン依存性糖尿病は、膵臓の中にあるインスリンを分泌する細胞(β細胞)の障害のため、インスリンが体内で産生、分泌されず、インスリン投与が必要となった状態です。
現在、インスリン依存状態糖尿病の治療としては、血糖測定をしながらインスリン注射をする強化インスリン療法が行われます。
しかし、綿密なインスリン注射でも血糖値が安定せず、低血糖発作を繰り返すことがあり(重症インスリン依存状態糖尿病)、この場合は膵臓移植あるいは膵島移植の適応となります。
いずれの移植も重症のインスリン依存状態を解決するための移植医療で、移植後は免疫抑制剤を使用する必要があります。
膵臓移植について
膵臓の臓器移植では、高い確率で1回の移植によってインスリンから離脱(正常血糖の維持のためにインスリン注射を必要としない状態)できる、あるいは糖尿病の寛解が得られる可能性があります。
ただし、全身麻酔による開腹手術を要するため患者さんの体へ負担がかかり、また、手術による合併症が起こる可能性もあります。
主に、腎不全を合併したインスリン依存性糖尿病の患者さんに腎臓移植と同時に行われています。当院では膵臓移植も行っておりますので、膵臓移植と膵島移植の違いについても詳しく説明いたします。
膵島移植について
膵島移植は膵臓から膵島だけを分離して移植する組織(細胞)移植で、インスリン離脱を期待するためには多くの場合2回から3回の移植を必要とします。
局所麻酔により皮膚の上から肝臓に針を刺してカテーテルという細い管を肝臓内の血管に入れ、膵島を点滴により移植します。患者さんの体への負担は小さく、また合併症の発生も少ないです。
主な対象は腎機能ある程度維持された、あるいは以前に腎移植を受けているインスリン依存状態糖尿病の患者さんとなっています。
生着する(移植された膵島が体内で働くようになる)と、血糖値が安定し、低血糖発作がなくなります。
場合によっては正常の血糖を維持するのにインスリン投与が不要となることも期待できることが報告されています。
移植した膵島が生着するためには、免疫抑制剤が必要です。
これは生体が起こす「拒絶きょぜつ反応はんのう」を防ぐためです。
拒絶反応は、病原体から生体を守っている「免疫」という生体本来の機能によって起こります。
免疫系は生体に進入したものを自分にとって益になるかどうかで判断するのではなく、自分とは同じかどうかで判断し、自分と違うものであれば攻撃をします。
そのため、免疫系は移植された膵島を「侵入者」とみなし攻撃します。これが拒絶反応です。拒絶反応がおこると、せっかく移植した膵島が破壊され、もとの糖尿病の状態に戻ってしまいます。
このような理由から膵島移植をうけた患者さんには必ず「拒絶反応を抑える薬」、すなわち免疫抑制剤による治療が必要となります。
これまでの臨床研究・臨床試験での治療成績について
日本ではまず、2004年から2007年までに18名に対して膵島移植の臨床研究が実施されました。
すべての患者さんで、空腹時血中C-ペプチドの平均値は、膵島移植後速やかに上昇しました。そのうち、複数回(2回あるいは3回)の膵島移植を受けた3名で一時的にインスリン離脱が得られました。
特に3回移植例では移植後36ヶ月までHbA1cの平均値が7.0を超えず、血糖コントロールは良好でした。
なお、ヘモグロビンA1c(HbA1c) とは、 過去1〜2ヶ月の平均血糖値の動きをみるための指標であり、C-ペプチドは内因性のインスリン分泌の評価のための指標です。
その後、免疫抑制療法の改良が進められ、海外からインスリン離脱率の向上と、インスリン離脱達成後のインスリン離脱期間の延長などの有効性が報告されました。
欧米で組織されたClinical Islet Transplantation Consortium(CITC)により、膵島移植を一般医療として確立するための最終段階である第だいⅢ3相そう臨床りんしょう試験しけんが実施され、その有効性が確認されました。
日本でも、これまで導入免疫療法として使用していたシムレクト®の他にサイモグロブリン®を用い、また維持免疫抑制剤としてシロリムスとタクロリムスの組み合わせからミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)とタクロリムス(プログラフ®)の組み合わせに変更して、先進医療Bとして多施設臨床試験を実施しました。その結果、日本でも、膵島移植の有効性と安全性が確認されております。
2020年4月からは、『同種膵どうしゅすい島とう移植術いしょくじゅつ』として保険導入されております。
京都大学病院での2004年から2007年の実施例では、初回移植後3、5、10年時における移植した膵島の生着率がそれぞれ42.9%、28.6%、14.3%でした。
膵島の生着とは、空腹時でも一定レベルのC-ペプチドが検出されること(膵島からインスリンが産生されていること)で定義されます。膵島生着中は全例で重症低血糖発作は起きませんでした。
その後、上記の先進医療Bの臨床試験での免疫抑制プロトコールを用いて当院で実施した膵島移植では、初回移植後2年生着率が100%、3年生着率が80%でした。
80%の症例では、移植後1年の時点で、重症低血糖発作の消失とHbA1c値の改善(7.4%未満)が確認されました。
膵島移植の適応と方法について
膵島移植待機登録
膵島移植が必要な患者さんは、『内因性インスリン分泌能が廃絶した糖尿病患者で、専門的治療によっても血糖変動の不安定性が大きく、重症低血糖のため良好な血糖管理を達成できない症例』とされています。
下記に示す適応基準を満たし、除外基準に該当しない方が、膵島移植適応判定申請書を日本膵・膵島移植研究会「膵島移植班」事務局に提出し、糖尿病専門医からなる適応検討委員会で申請書内容を確認して、事務局に登録された患者さんが膵島移植を受ける候補として登録されます。
膵島移植待機登録できるかどうかは、以下のような基準が定められており、過去の病気や現在の健康状態などにより医師が判断します。
適応基(以下の条件にすべて当てはまる方が登録可能)
- 膵島移植に関し本人の同意がある
- 同意取得時年齢20歳から75歳
- インスリン依存状態が5年を超えて継続する
- 高度の内因性インスリン分泌の低下(随時血清CPR < 0.2 ng/mL)
- 糖尿病専門医による治療努力によっても血糖管理困難
- インスリン抗体や自律神経障害などにより④に該当しなくとも、血糖管理が極めて困難で、適応検討委員会で適応認定されたもの
除外基準(以下の条件のどれか一つでも当てはまる方は登録不可)
- 中等度以上の肥満:BMI≧30
- 重度の虚血性心疾患または心不全:過去6か月以内に発症した心筋梗塞、過去1年以内に診断された心筋虚血、EF<30%
- 肝疾患:高度の肝機能障害
- 高度の腎障害:eGFR<30ml/min/1.73m2。腎移植後の場合は経過も含め個別に評価。
- 安定化していない前増殖または増殖網膜症(失明は除く) 眼科医のコメント添付必要
- 依存症:アルコール依存あるいは薬物依存
- 感染症:移植後免疫抑制下での増悪が懸念される活動性および潜在性感染症
- 活動性の足潰瘍・壊疽病変
- 悪性腫瘍
- その他移植に適さないもの
膵島移植の実際
膵島を提供してくださるドナーについて
脳死または心停止後に、臓器移植のために臓器を提供して下さるドナーから膵臓を提供いただき、その膵臓から膵島を分離して移植します。
脳死ドナーの場合は、膵臓を膵臓移植に用いない場合に、膵島移植のために膵臓が提供されます。
候補者選択
ドナーから、膵島移植の為の膵臓提供があった場合、基準を満たし登録された移植希望者の中から、日本膵・膵島移植研究会によって定められた「膵島移植レシピエント選択基準」によって膵島移植を受ける候補者が選択されます。
膵島移植の方法
膵島移植の実施にあたり、免疫抑制剤をはじめとする移植膵島を生着させるための薬剤の点滴または内服をします。
膵島の移植は臓器移植と異なり、通常は全身麻酔での手術は必要としません。
局所麻酔で超音波ガイド下に肝臓の血管(門脈)に体外からカテーテル(管)を留置し、膵島組織を注入します。移植そのものは1時間から2時間で終了するため、患者さんの体への負担は軽くなります。
膵島移植では、まず、膵島分離をおこなったあとに膵島移植を行います。
膵島分離では、膵臓に消化酵素を作用させて細かい膵組織とし(膵臓消化)、膵臓のほとんどを占めている膵外分泌腺を除去して膵島のみを集めます(膵島純化)。
膵島分離の結果、十分な膵島収量が得られた場合にのみ、膵島移植を行います。
膵島移植は、分離した膵島を点滴用バックに入れて、局所麻酔下に肝内門脈に挿入したカテーテル(管)より点滴の要領で膵島の移植を行います。(図:参照)
治療の所要時間は、カテーテル留置等に30分~1時間、膵島の移植に30分~1時間くらいです。
処置後一定時間は絶対安静が必要です。医師の指示による安静時間解除後からトイレ歩行は可能ですが、それ以外は基本的に翌朝までベッド上で安静にしていただきます。
水分摂取は可能ですが、食事は医師の指示に従ってください。一般的には一定期間絶食での管理になり、その間は必要に応じて点滴により栄養や水分の補給を行います。
また、処置時に鎮静剤(静脈麻酔)を使用した場合は、医師の指示があるまでベッド上で安静にしていただきます。
免疫抑制剤の投与について
免疫抑制剤にはいくつかの種類があり、それぞれの特徴は異なりますが、現時点で膵島移植に有効と考えられる組み合わせでの免疫抑制療法のもとに膵島移植を実施します。
免疫抑制剤として使用する可能性のある薬剤は『膵移植』に対する効能効果が承認されている薬剤(タクロリムスまたはシクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン、(腎移植後の場合)バシリキシマブ)で、これらを組み合わせて使用します。
具体的な使用法は担当医にお尋ね下さい。
予期される利益
膵島移植は、欧米・日本で臨床応用されています。
移植された膵島の機能が良く、免疫抑制剤の効果が充分に発揮されれば、血糖値の安定化、低血糖発作の消失、インスリン必要量の軽減(不要にもなりえる)などの糖尿病治療効果が期待できます。
合併症について
本治療では、皮膚・腹膜・肝臓を貫いて門脈に針を刺す操作をするため、合併症が起こることがあります。
これらの合併症により、入院期間が延長したり、手術を要したり、ごく稀ながら命に関わり得る重篤なものが発生する可能性があります。
移植術(処置)に伴う合併症は他の臓器移植に比べて極めて少ないですが、免疫抑制剤による副作用は、その他の移植と同様に起こりえます。
免疫抑制剤の副作用
副作用の発症につきましては個人差が大きく、患者さん個人にどのような症状がでるかを予測することは困難です。薬剤の使用は患者さんの症状をみながら慎重にすすめられ、検査によっても副作用の有無をチェックします。
副作用がでたときは、症状の治療や薬を減らすなど適切な対応をします。
必要な場合には、感染症専門医、血液内科専門医と緊密な連携の上対応致します。
使用する免疫抑制剤で報告されている主な副作用を以下に記載します。
発熱
サイモグロブリン®の点滴により発熱が見られることがあります。多くは一時的で解熱剤などの投与により軽快します。
感染症
免疫抑制剤の共通した副作用です。感染症の症状は様々です。
特にウイルス感染症が多いのですが、ほとんど無症状のものから、熱、咳、たん、のどの痛み、鼻水など風邪のような症状や胃腸炎(腹痛や下痢などの症状)、尿路感染(尿をするときの痛みや出血など)の症状などがあります。ふだんから清潔にするよう心がけてください。
特に移植後1カ月以内は、未滅菌ミルク、チーズ、生卵などを摂取しないようお願いします。
また、サイモグロブリン®使用後にはEBウイルスというウイルスの増殖によりリンパ腫が発生することが報告されています。
発熱、リンパ節腫大(頚部けいぶ、腋窩えきかや鼠径部そけいぶ等、図参照)を認めた場合は速やかに主治医へ相談してください。免疫抑制剤の投与を受けたB 型肝炎ウイルス既感染者においてB 型肝炎ウイルスの再活性化が報告されており、その中には劇症肝炎に至る症例があります。
この臨床試験で使用される薬剤の投与後にB 型肝炎ウイルスの再活性化が認められた場合は核酸アナログ(エンテカビル)の投与が推奨されています。
しかし、この核酸アナログ投与によっても肝炎の劇症化を完全に防ぐことが保証されるものではないとされています(エンテカビルの耐性株の出現頻度は1000分の6であるとされています)。
下痢
感染症以外でも下痢がおこりやすくなることがあります。下痢になったら、水分を補うようにしてください。
血球の減少、貧血
赤血液の成分が減ることにより、めまい、だるさ、息切れや動悸(胸がどきどきする)などの症状がでることがあります。また白血球の成分が減少することにより、重い感染症に罹患する場合があります。必要に応じ抗菌薬や造血因子の投与を行います。
アナフィラキシーショック
ごくまれにですが、サイモグロブリン®あるいはシムレクト®により、急性アレルギー反応によるショック症状をおこす場合が報告されています。
このような緊急時に十分対応すべく、万全の体制で、薬剤の投与を行います。
個々の薬剤の副作用と頻度については、別紙をご参照下さい。
治療後の医療の提供について
膵島移植後は、移植膵島の機能がある限りは免疫抑制療法を継続します。
また、担当医が最善と判断する治療、定期的なフォローアップの結果、必要に応じて血糖調節のためのインスリン療法を中心とした全身管理を継続いたします。
医療費について
移植術や検査などの治療にかかる医療費については、患者さんがお持ちの健康保険証により計算されます。保険の種類、収入状況によっては、「限度額適用認定証」などの提示により、実際の負担額を押さえる制度もあります。
ご不明な点があれば、外来については会計受付、入院については入院受付でおたずねください。
健康保険が適用される手術や検査などの治療にかかる医療費については概ね一定ですが、合併症などによって治療が必要になった場合はさらに費用がかかることになります。
合併症や偶発症が発生した場合は、必要な検査や治療を行うなど、適切に対処いたします。これらの医療は、通常通りの健康保険が適用され自己負担分をお支払いいただきます。
なお、治療に伴って個室での療養が必要と本院が判断した場合は、個室料はいただきません。患者さんのご希望で個室を利用された場合は、通常の診療と同様に個室料をいただきます。
本治療以外の治療法の選択
今回ご説明した治療法以外でも、他の治療法を選択することもできます。
膵島移植以外の治療法は、インスリン療法の継続となりますが、現在の血糖不安定を少しでも軽減させることができるように治療を行います。
また、もうひとつの移植療法である膵臓移植を行うことができる場合があります。インスリン治療継続の場合は免疫抑制剤を使用せずにすみますが、現在以上の血糖値の安定化は困難かもしれません。
膵臓移植の場合、血糖値の改善効果は高いですが、侵襲の高い開腹手術を受ける必要があり、膵島移植と同様に免疫抑制剤の内服も必要となります。
いったんこの治療を受けることに同意をいただいた後でも、他の治療に変更することや、治療自体を中止することもできます。
本治療以外に選択できる治療法については、患者さんによって異なりますので、担当医師にお尋ねください。
再生医療等安全性確保法について
同種膵島移植は、再生医療等安全性確保法により、第1種再生医療等に分類されております。
そのため、京都大学特定認定再生医療等委員会での審査を受けたうえで実施されております。
- 名称:京都大学特定認定再生医療等委員会
- 種類:特定認定再生医療等委員会
- 設置者の名称:国立大学法人京都大学(京都大学総長)
- 所在地:京都府京都市左京区吉田本町 36 番の1
- ホームページ:http://www.med.kyoto-u.ac.jp/nintei/
また、厚生労働大臣に再生医療等提供計画を提出しています。
実施医療機関および担当医師について
- 実施機関(再生医療等提供機関)
- 京都大学医学部附属病院(管理者 病院長 宮本 享)
- 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町 54
- 責任医師:穴澤 貴行 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
- 治療担当医師:秦 浩一郎 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 准教授
- 伊藤 孝司 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
- 藤倉 純二 京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科 病院講師
- 藤田 義人 京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科 助教
- 小倉 雅仁 京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科 助教