新年度 教授挨拶

着任して三年が経過しました。私の教授の任期は九年と短く、最初からその九年を3つに分けてビジョンをたてました。着任早々のwebinarで前期・中期のvision を宣言しました。
前期のvisionとして
• 手術症例数増加のための努力
• 教室人事の刷新 診療体制の再考
• 計画的な人材育成
• 大学間人事交流
• 関連病院との連携
• 大型予算の獲得
を挙げました。
大学病院の肝胆膵外科は、移植も含めて最後の砦としての役割を求められていますが、同時に質も求められています。つまり、安全で確実な手術です。ますます進む超高齢化社会において、負担の少ない治療法で進行癌を治すことが使命です。出血量、手術時間、合併症を減らすにはどうしたら良いか、さらに生存期間の延長にはどのような治療と組み合わせが良いのか、現状に満足することなく改善に努めています。その結果、当科のスタッフのみならず麻酔科をはじめとする他診療科の医師、手術室や病棟のスタッフの協力のもと肝胆膵外科高難度手術は2020年176例、2021年203例、2022年238例、2023年259例、と年々増加しています。
着任当初、私以外のスタッフは17名でした。その17名のうち7名の先生方が関連病院に赴任し活躍中です。さらに外部資金を調達し、私以外のスタッフ数は17名から20名に増加しました。以前からチーム制でしたが、週末は各グループ1名のみが登院するシステムが確立し、さらに臨床のカンファレンスは就業時間内開始として医師のワークライフバランスを考慮しています。さらに、DXを利用したシステムの改良により、いわゆる雑用を減らす改革がすすんでいます。
若手肝胆膵外科医の目標として日本肝胆膵外科学会高度技能医の修得があげられます。その修練には一定の条件(academic surgeonとしてチーム医療のリーダーシップが取れるか)を設けたうえで高難度手術であっても積極的に若手が執刀するシステムが確立しました。
高難度手術のうち高度技能修練医の執刀率は、2022年60.9%, 2023年74.5%にのぼります。
着任後、大学病院と関連病院で20名が日本肝胆膵外科学会高度技能医を修得しています。
一方、大学間の人事交流は、残念ながら現時点で実現していません。その準備はすすめていますが、今後は、中長期の展望を踏まえたうえでお互いwin-winになる関係での人事交流を期待しています。
多くの若手を対象としたセミナーを企画して、大学と関連病院との連携をすすめています。そのようなセミナーから臨床研究グループKUHBPSが発足しています。決して大学主導ではなく関連病院でのプラクチスからうまれたクリニカルクエッションを大切にしています。最近、KUHBPSをベースに行った臨床研究がJournal of the American College of Surgeonsにアクセプトとされ、その主任研究者より「肝胆膵外科セミナーで若手外科医にチャンスを与え、CQを生み出し、研究を行い、KUHBPSから情報を発信する。このいいサイクルをこれからも続けられたら、と思います。」とメールを頂きました。

今後、次の中期の目標として、
新しい医療の創生
国内外への発信
若手のリクルートと待遇改善
を挙げたいと思います。

ひとりでも治せないとされる患者さんを治したい。難治癌である肝胆膵癌の治療成績向上に努めたい。
京都大学の「限界にチャレンジする伝統」(自分で限界を作らない)を胸に秘めつつ、高度な先端医療を利用して安全に手術適応を拡大する。
若手の待遇を改善することにより仲間を増やし、地域医療を支える。
多様性を許容するふところを持ちつつ、コミュニケーションとリーダーシップにより大きな組織を発展させる。
などなど、思いは尽きませんが、以下の言葉を忘れず、就任4年目にあたり、決意表明とさせていただきます。

望ましい教師とは自分の専門分野の世界的に優れた研究に精通しているのはもちろんのこと、自らの理念を持ち、それを実行に移す覇気と活力の持ち主でなければならない(オスラー「平静の心」を求めて 医学書院)

2024年5月4日
波多野 悦朗