教室コラム『ご縁』を公開しました
大学院生の論文が雑誌「Hepatology」にacceptされました。
タイトルは、Characterization and role of collagen gene expressing hepatic cells following partial hepatectomy in miceで、肝切除後の肝再生におけるコラーゲン遺伝子発現細胞の役割を明らかにした論文です。助教の小山幸法先生が留学時から温めていたネタを大学院生の木村有佑君がまとめてくれました。今後、肝切除後の再生を制御するヒントになるかもしれません。この研究のポイントは、シングルセル解析で、星細胞を3つのクラスターに分類したことかもしれません。シングルセル解析では、京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンターの渡辺亮先生をはじめとする渡辺グループの先生方に大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。
渡辺グループのホームページには、「私たちは、研究の世界を変えます。新しいスタイルで積極的に共同研究を推進し、チームワークによって成しえる研究テーマに取り組みます。独自の研究哲学によって、社会への貢献を目指します。」とありました。素晴らしい!
今回のgood newsで思い出したのは、「Hepatology」も久しぶりだなあ、ということ。
私の学位論文も「Hepatology」ですが、私がかかわった論文では、2009年 当時の大学院生の長田博光先生(現 大和郡山病院 外科診療部長)の論文以来だったのです。
Nagata H, Hatano E, Tada M, Murata M, Kitamura K, Asechi H, Narita M, Yanagida A, Tamaki N, Yagi S, Ikai I, Matsuzaki K, Uemoto S. Hepatology. 2009
この論文で、TGFβとJNKをつなげてくれたのは、当時関西医科大学の松崎恒一先生(現まつざき内科クリニック院長)でした。JNK阻害薬を用いてラット肝癌の増殖進展を抑制できたのですが、そのメカニズムを明らかにできませんでした。その時、松崎先生がTGFβとSmad研究の第一人者であることを思い出し、共同研究を依頼し、その後はトントン拍子でacceptまで辿り着いたのでした。
なぜ、松崎先生を知っていたのか?私が、米国に留学していた1999年、アメリカの肝臓病学会がダラスで行われ参加しました。私はラボのドイツ人とウロウロしていたのですが、そこで日本から来ていた松崎先生と知り合い食事をご一緒したのが最初です。全く初対面でしたが、海外の学会では、なんとなく同じ日本人ということで仲良くなれるのです。
先日も「縁」を感じました。この度、日本肝胆膵外科学会のプロジェクト研究で「細胆管癌」の研究を国際医療福祉大学の小無田美菜先生と行うことになりました。小無田先生とは、2011年香港で行われた国際肝癌学会議(ILCA)の食事会で知り合いになりました。小無田先生はベルギーから参加されていたのですが、ずっと小無田先生のお仕事をfollowさせていただき、この度の共同研究に至りました。先日の第1回会議にて、小無田先生のお父様が、京都大学の外科の大先輩であることを知りました。さらに、当科の先先代の教授である山岡義生先生が当時最初に赴任した三豊総合病院の部長先生で、未だに小無田先生父と山岡先生のお付き合いが続いているとか…
思想家で武道家の神戸女学院大名誉教授の内田樹さんのインタビュー記事が印象に残っています(読売新聞 2022年3月22日から以下引用)。
―新刊『複雑化の教育論』(東洋館出版)で興味深かったのは、オンライン化が進み、キャンパスでの偶然の出会い、「バイ・アクシデント」が減っているという指摘です。
内田 それは日本語でいうと「ご縁」。いくら努力しても一人でやっていると空回りしてしまう。そこで先生と出会ったり、先輩や友人にひっぱってもらったりするご縁で道が開ける。僕は、なんだかんだといっても自己努力とご縁の比率は4対6。ご縁で仕事や出会いが広がりました。
(中略)
―しかし、景気は低迷し、大学3年生で就職活動も始まり、みんな忙しそうです。
内田 (中略)そもそも今、小学校に入った子供が22歳になり就職する時には、現存する職業の半分以上はなくなっているとの説はある。時代の変化をカウントせず、専門に埋没するのは賢いとは言えない。大事なのは、未知の時代を生きる勇気と汎用性の高い能力を身につけることです。…
最近、感じるのは、ありがたい「ご縁」の存在。なかなか内向きでは、縁はつながりません。どんどん、外向きに発信し、コメントや質問を頂きましょう。ありがたい「ご縁」に恵まれるかもしれません。ただし、ありがたい「ご縁」に気づかないことも多々あって、そこは本人のserendipityなんでしょうね。
2022.5.23 波多野悦朗