教室コラム#14 IHPBA Cape Townに参加して

2024年5月15日から18日に南アフリカのケープタウンで開催されたInternational Hepato-Pancreato Bililary Association (IHPBA) World Congress 2024に参加した。当初、ディベートセッションのプレゼンターに指名され、光栄と思いお受けしたが、遠方であることなどからあまり気乗りしていなかった。事実、コロナ後、大変出不精になっている。アジア以外に出国するのは、いつ以来だろう。コロナ以前から、診療科の科長となると海外への出張はあまり気が進まないようになっていた。以前に比べてオンラインでできる仕事は増えたのだが、数日空けるだけで、帰国後に溜まった仕事が大量になることがいやで、海外の学会への参加は億劫になっていた。さらに、円安で、渡航に伴う出費も嬉しくない要素である。
そうはいっても今回はプレゼンターに指名されているから行かざるを得ない。それもディベートのプレゼンターである。与えられたテーマは、「Going beyond Standard Indication in the Presence of Live Donors: Against」である。普段は生体肝移植の適応拡大を目指しているところのこの題目はさらに盛り下がる訳である。教室の先生方のおかげでなんとかスライドをまとめて15分話したが、discussionは残念ながら盛り上がらなかった。うん、テーマがいまいち。さらに、聴衆も少なかった。会場はバカデカかったが。

やはり、海外の学会に行くと、世界のTop of Topの話が聞けて刺激的だ。
World-wide Transplant Activity for Colorectal Metastasisと題したDr. Roberto Hernandez-Alejandroの講演
Thomas Starzl Memorial LectureのDr. Vincenzo Mazzaferroの講演などなど。
あー自分は狭い世界に生きているんだと感じる。世界の現状を知り、さらに未来を予測する。

Best of Best Oral Sessionには計11題が選ばれていた。11題中4題がオランダからだ。中国からも1題。日本は残念ながら0だ。
下記2題は、originalityは乏しいもののwell-designed studyで、プレゼンも秀逸だった。
PL03-1 One-Stage versus Two-Stage Surgery for Initially Unresectable Colorectal Cancer Liver Metastases: A Propensity Score-Matched Analysis of the Dutch CAIRO5 Trial
PL03-4 Prophylactic Abdominal Drainage after Distal Pancreatectomy (PANDORINA): Bi-National Multicentre Randomised Trial
PL03-4は最終的にBest Oral Presentationのawardを受賞していた。オランダは多くの多機関での前向き試験に成功している。なぜ、日本からそんな仕事が出ないのか?

全般的に日本、日本人が元気がない。ほんと井の中の蛙で、非常に危機感を感じた。コロナ鎖国のせいもあるかもしれないが、コロナの間に日本の存在感が明らかに低下している。日本が世界に誇れるのは?手術の技術だけではなく、緻密な術前評価やや周術期管理に基づいた究極の治療成績のはずである。

今回、希望峰にも立ち寄った。右は大西洋、左はインド洋で全く海の色が違うのが印象的だった。ヴァスコ・ダ・ガマは、ヨーロッパからアフリカ南岸を経てインドへの航路をヨーロッパ人として初めて「発見」した人物であるとされる。出発時の147名のうち帰国した者は55名に過ぎなかったという。建築家の安藤忠雄先生は、1965年から66年にかけてフランスの貨客船でマルセーユからの帰途、アフリカをぐるっと回ってケープタウンに立ち寄りマダガスカル島にも寄港して帰国したとか。危険を伴う旅であっても、それを上回る未知の世界に対する期待があったのであろう。我々は、現状に満足してはいけない。治療成績は改善したといっても多くの患者さんを治せずにいる。今こそ臆せず世界に出て、世界に学び、やはり日本、日本人は素晴らしいと世界にアピールしたい。

学会主催のパーティーでは世界のビッグネームと盃を交わした。さらに、最終日の夜は、美味しい南アフリカワインを楽しみながら、学会の重鎮の先輩に愚痴を聞いていただいた。ありがとうございました。海外の学会ではこんな至福の時間が得られるメリットもある。

 

波多野悦朗

 

 

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