再生・幹細胞研究
当グループはこれまで肝臓の発生生物学や再生医療、肝胆膵領域の癌幹細胞生物学などを研究してきました。
人工肝臓の作製〜細胞移植から人工臓器移植に向けて
臓器移植(生体でも脳死でも)は確立された医療ですが、侵襲が大きい上にドナー不足という問題があります。
細胞移植は臓器移植と比較して侵襲が少なく繰り返し移植可能であり、ES細胞やiPS細胞を用いるとドナー不足の問題も解決できると考えられてきました。
これまで我々は肝障害モデル動物に成体肝細胞、胎仔肝細胞、ES細胞由来肝細胞などを細胞移植することによって生存率が改善することを報告してきました。
非常に有望かと思われましたが、詳細に検討してみると移植した細胞は移植後数時間でその数が激減し16時間でわずか1%程度しか残っていないことがわかりました。
移植した細胞がなんらかの液性因子を分泌し元の肝臓の機能を保護することで生存率が改善したものと考えましたが、詳しいメカニズムの解明は今後の研究課題です。
いずれにしても単純な細胞移植では限界があることが分かりました。
一方で、臓器を界面活性剤などで灌流し細胞成分のみを除去して非細胞成分のみからなる骨格を得る脱細胞化技術という新しい技術があります。
脱細胞化肝臓に肝細胞や血管内皮細胞などを適切な方法で再細胞化させることにより、ハイブリッド型人工肝臓とでもいうべき構造物をラットで作製することに当グループは成功しています。
この人工肝臓は十数時間の体外循環が可能なレベルに達しています。
今後はより機能的で移植可能な人工肝臓を作製することや、iPS細胞由来肝細胞を用いた人工肝臓の作製などを目指しています。
癌組織の不均一性を解明し、治療抵抗性をもたらす癌進化に挑戦する
癌細胞は同一患者内の同一腫瘍組織内でもそれぞれ性質が異なります(腫瘍内不均一性)。
DNA修復系の破綻などでゲノムDNA変異が個々の細胞で蓄積してサブクローンができてくることや、DNA塩基配列の変異を伴わないエピジェネティックな変化、癌細胞と周囲環境(例えば細胞外基質や腫瘍関連線維芽細胞、血管新生など)との相互作用、癌幹細胞による「分化」などが腫瘍内不均一性を生み出す原因として挙げられています。
これらが複雑に絡み合い多様性を持った癌細胞集団が出現し、治療を加えることで治療抵抗性のクローンのみが選択され再発や転移の原因となる可能性が示唆されています。この過程を癌進化と呼んでいます。
我々はこれまで肝細胞癌、胆管癌、膵癌において癌幹細胞の存在を示してきました。
とく肝細胞癌では癌幹細胞が関連していると思われる症例では予後が極めて悪く、それ以外の肝細胞癌とは異なる亜分類を形作っていると提唱しています。
また肝硬変の細胞外基質は正常肝のそれと比較して肝細胞癌細胞をより悪性度の高いものへと変化させることも示してきました。このように癌の不均一性の解明を進めてきましたが、現在は次世代シークエンサーを用いて腫瘍内でどのように癌細胞が進化し治療抵抗性を持つようになるのかを検討していく予定です。
造影CTやMRIを用いた肝血流測定
肝切除や移植において、大量肝切除後の術後肝不全や過小グラフト症候群(Small-for-Size Syndrome: SFSS)は術後早期の致死的な合併症であり、肝臓手術における課題となっています。
グラフト容量(肝切除後においては残肝容量)の小ささが原因ですが、移植・肝切後の門脈圧上昇がSFSSの発生の高リスク因子であることも報告されています。
しかし、移植・肝切除後に、どのような血流変化や力学的刺激が起こり、それらがどのように肝再生を誘導しているのかについての検討はこれまでなされていません。
そこで当グループでは小動物MRIの新規撮像技術と画像解析技術を用いて、これまで詳細な評価が不可能であった移植・肝切後の門脈血流変化を客観的・定量的に評価し、移植・肝切後の肝再生とSFSS 発症に対する門脈血行動態との関係を解明することを目的に研究を行っております。
他にもヒトを対象とした解析も開始予定で、放射線科およびシーメンス社との協力のもと準備を進めており、まもなくデータ収集が開始となる予定です。
これらの血流解析を行う手法は、肝胆膵領域においてこれまでほとんど試みられておらず、独創性のあるアプローチであり、本研究の目的が達せられれば、術後肝再生や SFSS の機序理解へ扉を開くブレイクスルーとなり、肝移植医療や肝臓外科治療の安全性・成績向上に大きく貢献すると考えています。
オーダーメイド3次元実体肝臓模型を用いた術中ナビゲーションの試み
基礎研究の他に新規医療機器開発として、3D造形の一種である光造形を用いた術中ナビゲーションシステムの構築を行なっています。
患者個人のCTデータから患者本人の肝臓と寸分違わぬ実物大肝臓模型を術前に作製します。この時、肝臓実質を透明にしておくことによって内部の脈管が透けて見える「透明な肝臓」が出来上がります。
外科医は術前にこの模型を使って手術シミュレーションを行うことができると同時に、模型を滅菌して術野に持ち込み適宜参照しながら手術を勧める術中ナビゲーションとして役に立てることができる、と考えています。
現在、臨床試験として症例を蓄積しています。
研究メンバー
- 石井隆道:taishii*kuhp.kyoto-u.ac.jp
- 福光剣:tsurugi*kuhp.kyoto-u.ac.jp
- 小木曾聡、上林エレーナ幸江:スタッフ
- 大島侑:研究員
- 河合隆之:客員研究員
- 伊藤孝、友藤克博、若間聡史、牧野健太、堀江博司:大学院生
連絡する際には*を@に変更してください