教室コラム #2 『ある朝の妄想』

最近、よく経験することがある。自宅から駅まで、駅から病院までそれぞれ10分ほど歩くのだが、人によく抜かれるのである。

私より身長の高い若い男性に抜かれるのは、わかるのだが、私より身長の低い女性にもどんどん抜かれる。

 

『私もサルコペニアか?歩行速度1.0m/s以下ということはないだろう』

『サルコペニアの初期症状?最近、運動していないし、関節もカチカチで、歩幅が狭くなってきた?』

などと思っているうちに、その女性はどんどん先を行く。

 

『抜かれてどんどん離れていくって、イヤやなあ。あー箱根駅伝で抜かれていくランナーはこんな気持ちなんかなあ』

と走ったりもしないくせに勝手に妄想する。

 

いやいや、私も人生50半ばをすぎて、色々と考える。私は、完全なバブル世代(1956-1970年生まれ)です。

新しいものが好きで、豊かで快適な生活を求める世代でした。

学生時代はバブルで、新しいお店ができたと知るとすぐに行きたがるチャラい学生でした。

我々外科研修医の働きぶりも、「2週間ずっと病院に泊まってるわ」、などと自慢(?)してたりして、「モーレツ」がかっこいい(?)などと思っていた時代でした。

毎日、毎日が慌ただしく過ぎていった研修医の日々でした。どんどん追い抜かれるようになると勝手な理屈をつける。

 

「そうだ、”スローライフ” を楽しもう!」仕事に明け暮れ、食事はコンビニで簡単にすませて、何事も効率重視、そんな大量生産・大量消費社会の反省から「スローライフ」が以前から提唱されている。

時間に追われずに、余裕をもって人生を楽しもう。SDGsもそう。SDGsとはご存じのように「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」。

最初は、何いうてんねん、と思ったけど、最近は色々と共感することも多い。

 

超高齢化の日本、外科医も若手が減って高齢化、胃がんも大腸がんも肝がんも減って、増えているのは膵がんくらいか?外科はひたすら成長を目指すのではなく、患者さんも医療者もhappyで、余裕をもって安全で安心な医療を提供できたらいいやん、と思ってたら、先に歩いてた女性は信号待ちで追いついた。

ほらね。そんな先を急いでても一緒やん、と自分を肯定する。

こんな妄想の日常ですが、無理せず、一歩、一歩進んでいくしかないんですわ。焦って成果を欲しがるんですけど。

「急がず、焦らず、投げ出さず」

「忙しいときほど、ゆっくり、丁寧に」

2022年1月5日 波多野悦朗