教室コラム #3 『コロナ渦での留学生活を終えて』

H18年卒 医員の藤 浩明 と申します。

私のような若輩者が3番目のコラムを担当することは大変恐縮なのですが、まだ留学から帰学後まもなく、時間に余裕があるだろうということで ご指名を頂きました。

拙い文章ですが、どうかご容赦ください。

研究棟

私は京都大学大学院卒業後、2019年4月より2年8ヵ月 UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)のDavid Brenner & Tatiana Kisseleva 研究室にPost-Docとして留学し、肝臓の研究に従事させていただきました。

 

留学して1年弱、家族ともどもようやくアメリカでの生活に慣れ、そろそろ小旅行でもしようかと計画していた矢先、対岸の火事だったはずの中国で発生した新型コロナウイルスはあれよあれよとアメリカ本土にも広がり、2020年 3月にはついにカリフォルニア州で外出禁止令が発令されてしまいました。

昼間にも関わらず大学やモールからは人通りが消え、店舗からは消毒液やマスク、トイレットペーパーまでもが品薄で購入できなくなってしまったときには、さすがに不安を感じました。

その後もコロナ渦はなかなか収束せず、ミーティングや学会がほぼすべてオンラインとなり、留学の醍醐味である人との関わりが減ってしまったことは非常に残念ではありましたが、そのような困難な状況の中で、無事に留学生活を終えることができたのも、Brenner 教授をはじめとするラボメンバーのサポートのおかげであり、大変感謝しております。

ラボメンバー達と・・・(左奥から2番目が私です)

 

さて私の主な研究課題は・・・

  1. マウスの胆汁鬱滞解除モデルを導入し、胆汁鬱滞性肝障害からの回復過程で起こる肝非実質細胞の変化をsingle nucleus RNA-seqで解析し、新たな治療標的を探索すること。
  2. 活性化した筋線維芽細胞の役割を、“肝線維化モデルにおいて筋線維芽細胞を特異的に消失させると、何が起こるか?”というアプローチで検討すること。

の2つでした。帰国までに結果をまとめることはできませんでしたが、今後もラボとのコミュニケーションを継続し、是非とも論文に報告したいと考えております。

そんな私ですが、自分なりに留学を通じて感じたことをいくつか記載させていただきます。

 

文化の違い

大学に設置された無料のコロナ検査キット自販機

アメリカで感じたことのひとつは日本とのデジタル化の違いです。

例えば公立の小学校であっても生徒ひとりひとりにiPadが配布され、教育用アプリを使用した授業などが展開されていました。

コロナ下では、一時的に休校になったものの、1週間後には配布されたiPadを利用したオンライン授業が開始され、その後、感染の状況をみながら希望者には通学を許可し、不安な人はオンライン授業を継続してもよいなど、非常に柔軟な対応をしてくれる事に驚きました。

大学の実地勤務者は、週1回のコロナ検査を義務付けられましたが、そのために大学には無料のPCR検査キット専用自販機が設置され、その場で検体を提出すれば1-2日以内に結果をオンラインで知ることができました。

ワクチン接種はアプリを通じて簡単に予約できました。

このようにコロナ渦に対する対応が、迅速かつ臨機応変であったことに、多種多様な民族で形成された巨大な国家を管理するアメリカの、デジタル化によるシステム作りの上手さを垣間見た気がしました。

人との関わり方、いかに魅力的になれるか

研究室のボスであるBrenner先生は68歳になられた今も副学長を兼務されており、超多忙なはずなのですが、疲れているところを見せることがありませんでした。

ミーティングではジョークを言って雰囲気を盛り上げ(自分はアメリカンジョークを最後まで理解できませんでしたが…..)、研究成果についても上から目線ではなく、建設的にアドバイスをして頂きました。

私の担当した研究テーマではシングルセル解析という比較的新しい技術を用いた解析を行ったのですが、その技術や解析に精通した共同研究者が同じ大学にいたり、得られた結果をさらに発展させるべく、すぐに新しい遺伝子改変マウスを共同研究者から導入するなど、その交友関係の広さに驚きました。

もちろん実績があってこそですが、多くの研究者や企業と共同研究されているのは、その人柄による所もあるのだろうと思います。

研究も手術も自身の力だけではよい結果は得られません。頭の回転は到底真似することはできませんが、せめて“一緒に仕事をしたい”と思ってもらえるような、魅力的な人物になる努力をしようと思いました。

家族への感謝

ハイキング中の一コマ(一番左が私・・・)

私の場合、振り返れば留学まで、ほとんど家庭の事に時間を割くことはありませんでした。

一般的なお父さんとしてはまだまだ少ないのかもしれませんが、それでも留学中には多少の家事をし、家族と過ごし、会話する時間が格段に増えました。

国立公園などの壮大な自然体験を家族と共有できたこと、子供を通じて海外の家族と交流したことは、私にとって一生の思い出となり、同時に家族のありがたさ、大切さを感じることができました。

留学生活を終えて

勿論 楽しいことばかりではありませんでしたが、コロナ渦のなか外国人として異国の地で生活し、肌で感じた経験は、今後の人生の糧になると信じてやみません。

Brenner研への留学を推薦していただいた祝迫先生をはじめ、快く留学に送り出していただいた瀬尾先生、朝霧先生、田浦先生、波多野先生に改めて感謝申し上げます。

今 臨床現場に復帰し、改めて感じることは 手術、臨床のやりがいや奥深さ、そして教室におられる諸先輩方や同期、後輩の先生方の優秀さです。

波多野教授新体制のもと、これまでの臨床経験、留学経験をもとにいかに自分の特色を出し、教室あるいは病院に、そして患者さんの治療に貢献できるか。

日々考えながら外科医として精進していく所存です。
どうかよろしくお願い致します。

2022年1月26日 藤 浩明